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本プロジェクトの暫定版シナリオ報告書「カーボンニュートラル:明るく豊かな社会か、暗く貧しい社会か」が公表されました。

 世界中で気候変動のリスクの認識が深まる中、地球温暖化対策の強化が必要である。その際、重要な分析ツールがシナリオである。本研究プロジェクトでは、日本の2050年カーボンニュートラル(CN、脱炭素またはネットゼロ)達成に向けた対策を加速する社会戦略や政策ミックスを考えるためのシナリオを作成している。手法としては、文献調査による過去のトレンドのレビュー、総合知を活用する専門家ワークショップや定量モデリングなどを組み合わせた。本報告書では3つの異なる2050年CN社会シナリオの暫定版を提示する。


シナリオA「明るく豊かな国際協調型CN社会―脱炭素コスモポリタン」:
国際協調を基盤に、再生可能エネルギーや革新的技術の普及が進み、経済成長と環境保護を両立する社会である。グリーン水素の活用が進み、エネルギーシステムは持続可能かつ公平に管理。AIや国際的政策協力がグローバル課題の解決に貢献し、社会全体で倫理的な選択や持続可能なライフスタイルが重視される。日本はエネルギー・環境分野で世界的リーダーとなる。

シナリオB「明るく豊かな自給自足型CN社会―エコ・ナショナリズム」:
地域密着型の分散型エネルギーシステムが特徴である。国内資源の活用や農業との融合により、自給自足的なエネルギー体制を構築し、地方と都市間の格差是正にも貢献する。コミュニティベースの社会運営を通じ、地域社会の結束力を高めることを重視している。政府主導でカーボンニュートラル製品の普及と技術開発が進み、災害適応と持続可能な都市計画も強化されている。

シナリオC「暗く貧しいCN社会―社会の崖っぷち」:
日本のGX政策の失敗や技術導入の遅れによって社会が経済的に疲弊し、エネルギー貧困や格差の拡大が深刻化する。政治腐敗と不安定な統治が続き、社会全体の持続可能性が損なわれている。国際的な孤立や資源調達の困難、AI格差による雇用喪失が発生し、社会の安定性と持続性を損なうリスクが高まる。ただ、外圧によってCN政策は継続される。

未来の社会を議論する際、「明るく豊かなCN社会」のみを想定することはできない。むしろ、「暗く貧しいCN社会」も議論することで、「明るく豊かなCN社会」を達成するための社会戦略や政策ミックスが明らかになる。さらに、脱炭素化が進む中で生じうるリスクや課題を事前に特定し、それを回避するための政策や技術的アプローチを考える契機となる。
「明るく豊かなCN社会」のためには何が必要であろうか。本シナリオは暫定版であり、必ずしも包括的な提案はできないが、幾つか重要な示唆が得られた。まず、社会変革の速度には限界があり、行動が遅れれば遅れるほど選択肢は狭まり、望ましい社会を実現するためにかかるコストや困難性が増大することと解釈できる。このことから、望ましい未来を実現するには、早期の政策決定と具体的な行動を迅速に実施することが不可欠である。次に、「明るく豊かなCN社会」も、一つではないことである。現在進んでいる様々な技術イノベーションの開発や社会的な取り組みがすべて成功する保証はなく、複数のCN社会の可能性を踏まえて、政策ミックスや社会戦略を強化していく必要性がある。
本研究では統合評価モデルを用いてシナリオの暫定的な定量化も行った。2050年のCN社会達成のためには、モデル内の炭素価格が伸び続けることを踏まえて、政策の大幅かつ継続的な強化が必要になる。対策については、最終エネルギー消費の減少(経済全体のエネルギー効率上昇)、電源の脱炭素化、需要部門の電化の推進、二酸化炭素除去(CDR)の導入など共通点が見いだされた。一方、シナリオによって水素の生産方法(輸入か国内生産か)や導入量が大きく異なることが見いだされた。これらは様々な既往研究とも整合的である。
シナリオの目的は、流布されている「公式の未来」以外も起こる可能性を受け止め、「聞きなれない」「別の」未来像も考えることで、現在の政策や対応の検討を促すものである。本報告書は4年間のプロジェクトの中間時点で暫定的なシナリオを示したものである。激変する地政学・地経学的状況や技術イノベーションの動向や暫定版シナリオへの意見を踏まえて、残りの2年間で社会戦略と政策ミックスに資するシナリオに磨きをかけていく。

PDF ⇒ 暫定版シナリオ報告書「カーボンニュートラル:明るく豊かな社会か、暗く貧しい社会か」

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